社長は男子高校生

株式会社飛脚堂の社長は男子高校生です。

未だ解明されていない「睡眠」メカニズムのミステリー

TEDxTsukuba登壇者、柳沢正史さん。睡眠神経の研究をされています。きっと眠くなってしまうんだろうな(睡眠だけに)と思っていたら、失礼しました、とんでもなく面白く、興味をそそられる話でした。

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柳沢正史先生

 

「睡眠」はミステリー

みなさんは眠りにどういうイメージをお持ちでしょうか。睡眠がもったいないと感じる人もいるでしょうし、眠りこそ私の生涯という人もいるでしょう。私にとっては眠りは「ミステリー」です。

 

睡眠時間が短い動物もいれば、長い動物もいる。個人差もある。しかし、睡眠時間がいくら短くなろうとも、眠らない動物はいない。すべての哺乳動物において、眠らない動物はいない。進化論的に言えば。眠ることはリスキー。寝ている間は食物は摂ることは出来ないし、敵に襲われる可能性だってある。眠らない動物が栄えてもいいはずなのに、未だかつてそういった動物が栄えたことがない。

 

「なぜ眠らなければならないか」というメカニズムはまだ分かっていない。哺乳動物は10〜14日眠らせないようにすると死んでしまう。つまり、睡眠は動物にとって必要なもの。必要ではあるが、なぜ必要であるか、なぜ眠らなければならないか、というメカニズムは分かっていない。

 

解明されない「眠気」のメカニズム

睡眠をとらないと、メタボなどの生活習慣病への影響もあれば、健康に影響を及ぼす。なぜ健康への影響があるのかも分かっていない。それに加えて「眠気」のメカニズムも分かっていない。「眠気」とはそもそも何か。徹夜明けのような恒常性、時差ボケによる体内時計、火事の時などの情動によるものなど、色々な制御があり、表面的な事象については研究されているが、本質的なことは分かっていない。

 

私は、研究グループで脳内の覚醒物質「オレキシン」を発見した。私はこのオレキシンは食欲が増進されるホルモンだと思った。オレキシンを分泌しないようにしたマウスは食欲がなくなり痩せるはずだ。そう思ったら、かえって太ってしまった。どうやらオレキシンは食欲ではなく睡眠や眠気に関係することらしい。

 

マウスは夜行性の動物なので、夜、赤外線で観察してみた。オレキシン遺伝子が欠損しているマウスは、ある時急にパタッと倒れてしまう。同じように、オレキシン受容体が欠損しているイヌでも興奮すると同じようにパタッと倒れてしまう。

 

覚醒障害「ナルコレプシー

このオレキシンによる症状は、覚醒障害「ナルコレプシー」というもの。ナルコレプシーとは、睡眠覚醒スイッチングが安定しない症状のこと。例えば、今みたいなつまんない講義を聞いていればみなさん眠くなるが(笑)、話している僕が眠ってしまったらおかしいですよね。

 

このナルコレプシーは、1000人から2000人に1人みられる。ナルコレプシーということはすなわちオレキシンの欠乏ということ。人間におけるナルコレプシーは、興奮した瞬間に脱力する症状がおきる。例えば、笑うと、急にパタッと倒れるように脱力する症状がおきてしまう。

 

今、ナルコレプシーに対する治療は覚醒させる物質を飲ませる対処医療でしかない。受容体作動薬が実用化されれば、ナルコレプシーの根本的治療になりナルコレプシーの代わりになってくれる。

 

気の遠くなる実験

オレキシンの働きは、睡眠覚醒スイッチングの手助けをすること。でも、それが根本的にだれがスイッチを押しているかが分からない。この謎の度合いはとてもひどく、仮説すら立てられない謎である。だから探索的研究ということを行う。探索的研究とは、特定の仮設を事前に用意せず、目の前にあるもの(データ、実験)などから、色眼鏡を介さずに研究することである。

 

遺伝子変異があるから形質が違うことを発見するという方法でなくて、形質の違いから遺伝子変異を発見するやり方。メンデルが後者で行ったように、私達も後者のやり方を行うしか無い。6000匹を超えるマウスを使い、大規模に睡眠の波を見る。そして異常があるマウスを発見してさらに実験を重ねる。遠回りな作業、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるといった感じ。マウスのSleepy遺伝子変異による覚醒時間の長短の実験を元に、今も研究を続けている。

 

オレキシンの働きを抑える働きは、今アメリカの企業が開発し、来年にも実用化される予定。そして日本が一番最初に認可されるはずだ。今ある睡眠薬は元をたどれば全部同じ有効成分で、GAVAの働きを抑えるもの。認可されれば、全く新しい種類の睡眠薬になる。私たちが作りたいのは、オレキシンの働きを抑制する薬ではなく、促成される薬。そのために、わたしたちは探索的研究をしている。

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アフターパーティーでの柳沢先生

 

アフターパーティーでも柳沢さんの周りには人がたくさんいました。柳沢さんは食べる暇もなく、睡眠について語り続けました。質問にも丁寧に答えていらっしゃいました